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その解約料は妥当?ユーザーの不満を顧客満足に変えるための企業戦略とは。

現行の消費者契約法には、解約料は事業者が実際に受ける「平均的な損害」を超えてはいけないというルール(消費者契約法9条1項1号)があります。

この「平均的な損害」について、実際のビジネスでは解約料が損害を補うためだけでなく、企業の価格設定戦略などの一部として使われていることもあり、経済界からは同法は「取引実態に合っていない」との指摘があったことが問題視されていました。

昨年2023年12月15日には、「第1回解約料の実態に関する研究会」が開催され、各大学に所属する委員の先生方により、現行の解約料に関する問題点について、消費者の意見を参考に議論が行われました。

「平均的な損害」とは

“消費者契約法は,消費者と事業者との間には情報の質・量や交渉力等について格差があることから,その格差を是正し,弱い立場の消費者を保護するため,消費者・事業者間の契約締結過程において事業者に不適切な勧誘行為があった場合に消費者に取消権を認めたり,消費者にとって一方的に不利益な条項を無効としたりする法律です。

そして,消費者・事業者間の契約においては,契約解消の際に契約書等をたてに高額なキャンセル料・違約金等の支払いを請求されるトラブルが以前より多くありましたが,契約解消に際し事業者に実際にこうむった損害額を上回る金員を請求できることを認める必要はありません。むしろ,そのような請求を認めると,契約解消を契機として事業者が不当な利益を得ることを認めることになり,妥当でありません。

そこで,消費者契約法9条1号は, 消費者契約が解除された場合(解除の理由は問いません。),契約解除によって事業者が被った損害を上回る高額な損害賠償金,違約金,解約料,キャンセル料といった金員の支払等を定める契約条項(既に払った金員の不返還を定める条項等も含まれます。)について,当該事業者に生ずる平均的損害を上回る部分については無効とする旨を規定しました。

この「平均的損害」とは,同じ事業者の同種類の契約が解除された場合を想定し,その場合にその事業者に生ずる平均的な損害額をいうと解されています。

つまり、消費者として事業者とした契約が何らかの理由で解消された場合に,契約書等に書いてあるからと高額のキャンセル料・違約金等を請求された,または,前払いしたお金を一切返してもらえないと言われたとしても,状況によっては,消費者契約法9条1号を武器に事業者と戦える(=契約条項の無効を主張して支払いを拒否できる,または,前払いしたお金の返還を請求できる)可能性があります。”

引用:弁護士法人東町法律事務所-コラム第133回 知らないと損する?法律のお話し

解約料の支払いが争点となった裁判事例

本研究会の議論において、解約料の支払いが争点となった裁判事例を一部抜粋してご紹介します。

【Ⅰ型 逸失利益(粗利益)】京都地判平成25年4月26日平成23年(ワ)第 3426号結婚式場解約金条項使用差止等請求事件

“【事案の概要】
 適格消費者団体が、結婚式場等の企画、運営等を業とする被告に対し、被告が不特定かつ多数の消費者との間で、キャンセル料条項が、9条1号により無効であるとして、上記契約条項を内容とする意思表示の差止め等を求めた事案。

【判断の内容】
 請求棄却。
① 本件キャンセル料条項は、9条1号にいう違約金等条項にあたる。

② 平均的損害の算定方法について、9条1号は、民法第416条を前提としその内容を定型化するという意義を有し、同号にいう損害とは、民法第416条にいう「通常生ずべき損害」に対応するものであるから、本件契約の解約に伴う被告の平均的損害についても、解約に伴う逸失利益(得べかりし利益)から、再販売(被告が他の顧客との間で本件契約を締結し、ほぼ同一の日時、場所で挙式披露宴を実施したような場合)により塡補される利益及び解約により支出を免れる経費を控除することにより算定すべきである。

③ 具体的には、(1)本件契約における平均実施金額(挙式披露宴実施代金の平均額)を基礎として、同金額から、(2)同金額と被告の利益率から算出される、解約に伴い被告が支出を免れる経費の額、及び(3)被告の非再販売率から算出される、再販売により填補される利益の額を控除する方法により、本件各キャンセル料条項に係る各解約時期において解約された場合に、被告に生じる平均的損害の額を算定し、本件各キャンセル料条項に係る各解約時期におけるキャンセル料の額を、各個別料金項目(会場使用料、ウエディングケーキ代等)の上記平均実施金額に占める平均的割合を用いてその値を算出するなどして算定した上で、同キャンセル料について、各解約時期において解約がされた場合に被告に生じる上記平均的損害の額を上回るかどうかを検討し、いずれも同損害の額を超えるキャンセル料を定める条項とはいえないとした。”

引用:弁護士法人近江法律事務所-消費者契約法判例集-H25.04.26京都地裁判決

【Ⅱ型 逸失利益(機会損失)】東京地判平成24年4月23日平成23(レ)774号不当利得返還請求控訴事件

“【事案の概要】
結婚式のドレス等のレンタル契約を締結し、同日レンタル料を支払ったものの、翌日に解約し、レンタル料の返還を求めた事案。解約料条項として、申込日より5日以内は0%,申込日より6日目以降から挙式日よりさかのぼり125日前までは内金全額,挙式日よりさかのぼり91日前までは衣装総額の80%,それ以降は100%,仮合わせ後,又は挙式日まで61日以内での申込みの場合は衣装総額100%との記載があり、さらに、特別セットプラン,キャンペーンの場合は申込み後(ご署名後)総額100%との約定があった。本件はキャンペーンのものだった。

【判断の内容】
 ドレス等のレンタル契約の成立後,契約を解除された事業者が被る平均的な損害(9条1号)は,当該契約が解除されることによって当該事業者に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいうところ,契約成立の翌日にはこれを解約する意思表示がされた本件の場合,契約締結から解除までの実質1日の期間中に,解約による平均的な損害は発生しないとして,違約金条項が9条1号により無効であるとし、レンタル料の返還請求を認めた。”

引用:弁護士法人近江法律事務所-消費者契約法判例集-H24.04.23東京地裁判決

【Ⅲ型 契約締結のためにかけたコスト】京都地判平成24年3月28日平 22(ワ)2498号・平23(ワ)918 号解約違約金条項使用差止請求、不当利得返還請求事件

“【事案の概要】
 適格消費者団体が携帯電話会社に対し、解約金に関する条項が9条1号又は10条に該当して無効であると主張して、12条3項に基づき当該条項の内容を含む契約締結の意思表示の差止めを求め(甲事件)、同条項に基づく違約金を被告に対して支払った者が不当利得返還請求を行った(乙事件)事案。

【判断の内容】
① 契約の目的である物又は役務等の対価それ自体に関する合意については,当該合意に関して錯誤,詐欺又は強迫が介在していた場合であるとか,事業者の側に独占又は寡占の状態が生じているために消費者の側に選択の余地が存在しない場合であるとかといった例外的な事態を除き,原則として市場における需要と供給を踏まえた当事者間の自由な合意に基づくものであり、契約の目的である物又は役務の対価についての合意は,10条により無効となることはない。

② ある条項が契約の目的である物又は役務の対価について定めたものに該当するか否かについては,その条項の文言を踏まえつつ,その内容を実質的に判断すべきである。本件解約金条項は、契約の目的である物又は役務の対価について定めたものではない。

③ 消費者契約における「平均的な損害」を超える損害賠償の予定又は違約金を定める条項を無効とした法9条1号の趣旨は,特定の事業者が消費者との間で締結する消費者契約の数及びその解除の件数が多数にわたることを前提として,事業者が消費者に対して請求することが可能な損害賠償の額の総和を,これらの多数の消費者契約において実際に生ずる損害額の総和と一致させ,これ以上の請求を許さないことにあると解すべきである。

このような法9条1号の趣旨からすれば,事業者は,個別の事案において,ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が,契約の類型ごとに算出した「平均的な損害」を上回る場合であっても,「平均的な損害」を超える額を当該消費者に対して請求することは許されないのであり,その反面,ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が,「平均的な損害」を下回る場合であっても,当該消費者は,事業者に対し「平均的な損害」の額の支払を甘受しなければならないということになる。

したがって,法は,事業者に対し,上記のような「平均的な損害」についての規制のあり方を考慮した上で,自らが多数の消費者との間で締結する消費者契約における損害賠償の予定又は違約金についての条項を定めることを要求しているということができる。

④ 更新後においても基本使用料金の割引額(標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額)の平均額には何ら差がないと考えられるから,本件契約の更新後の中途解約による「平均的な損害」も,被告と本件契約を締結した契約者につき,各料金プランごとの平成21年4月から平成22年3月までの月ごとの稼働契約者数(前月末契約者数と当月末契約者数を単純平均したもの)を単純平均し,それぞれに各料金プランごとの割引額(標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額)(税込)を乗じて加重平均した金額の,2160円に、被告と本件契約を締結した契約者のうち,平成21年8月1日から平成22年2月28日までの間に本件契約(更新前のものに限る。)を解約した者について,本件契約に基づく役務の提供が開始された月からの経過月数ごとの解約者数に,それぞれの経過月数を乗じて加重平均した月数の,14か月を、乗じた3万0240円であると認められ,原告らの主張するように更新後の中途解約に際して解約金を徴収することがその金額に関わらず法9条1号に該当するとはいえないし,本件更新後解約金条項に基づく支払義務の金額である9975円は上記の3万0240円を下回るものであるから,本件更新後解約金条項が法9条1号に該当するということはできない。

⑤ 法10条前段における,民法等の「法律の公の秩序に関しない規定」は,明文の規定のほか,一般的な法理等をも含む。本件は、前段要件は該当する。

⑥ 消費者は本件当初解約金条項に基づき解約権の制限を受けるものの,そのことに見合った対価を受けており,制限の内容についても何ら不合理なものではなく,しかも,被告と消費者との間には,本件当初解約金条項に関して存在する情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないといえるから,本件当初解約金条項は,法10条後段には該当しない。

⑦ 消費者は,本件契約が更新された後に解約金の支払義務を負うとされることによって解約権の制限を受けるものの,そのことに見合った対価を受けており,制限の内容も不合理なものではないから,本件契約が更新された後における解約金の支払義務を定める条項が,金額を問わず一般的に法10条後段に該当するとはいえない。

 さらに,本件更新後解約金条項における9975円という金額は合理的なものであり,被告と消費者との間には,本件更新後解約金条項に関して存在する情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないといえるから,本件更新後解約金条項もまた,法10条後段には該当しないと解するのが相当である。”

引用:弁護士法人近江法律事務所-消費者契約法判例集-H24.03.28京都地裁判決

【Ⅳ型 債務履行のためにかけたコスト】大阪地判平成14年7月19日平 13(ワ)9030号損害賠償請求事件

“【事案の概要】
中古車販売の解約において車両価格の15%の損害賠償金と作業実費を請求するとの条項に基づき,販売会社が支払いを求めて提訴したのに対し,消費者が,本件では「平均的な損害」が発生していないと主張した。

【判断の内容】
① 「平均的な損害の額」(9条1号)の立証責任について,同法が消費者を保護することを目的とする法律であること,消費者側からは事業者にどのような損 害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし事業者側が負うとした。

② 注文から2日後の撤回であること等から損害が発生しうるものとは認められないとして販売会社の請求を棄却した。”

引用:弁護士法人近江法律事務所-消費者契約法判例集-H14.07.19大阪地裁判決

解約料の実態に関する研究会で議論された争点

本研究会では以下のような争点が議論されました。

「損害の発生」を前提としない解約料とは何か

多くのサービス業では、料金プランとサービスの質に応じて解約料の有無が異なります。例えば、料金が高めのプランではサービスの質が高く、解約料がかからない傾向があります。

これに対して、低料金プランではサービスの質が若干低下し、解約する際に料金が発生することが一般的です。航空業界やホテル業界では、このような料金設定がよく見られます。

また、予約のタイミングによっても解約料の扱いが変わることがあります。高価格プランでは、予約時期が自由で、解約時に返金が可能ですが、低料金プランの場合は、早期予約が必要で、解約した場合の返金は行われないことが多いです。

さらに、契約期間と解約料の関係も重要です。高料金プランでは月単位の契約が一般的で、いつでもキャンセルが可能で解約料は発生しないものが多いですが、低料金プランでは長期契約が求められ、途中解約の際には返金されないことがほとんどです。

これはWi-Fiや動画配信サービス、PCソフトウェアなどでもよく見られる仕組みです。

これらの事例から、損害の発生を前提としない解約料は、サービスの提供条件や料金プランに密接に関連していることがわかります。

消費者が解約料の支払に感じる「不満」とは何か

消費者庁の令和5年12月の調査によると、解約料を支払った消費者の約60%がその支払いに不満を持っていることがわかりました。

この不満の内訳を「とても不満だった」と「やや不満だった」に分けると、合わせて57.5%に達するという結果が得られました。


参考:消費者庁:解約料に関する現状について(頁6)

不満の理由は様々ですが、主に以下の点が挙げられます

高額な解約料:多くの消費者は、支払う必要のあった解約料が高額であることに不満を感じている。

返金がない:解約に際して返金がなかったことが、大きな不満の原因となっている。

解約料そのものの存在:単純に解約料を支払うこと自体が不満の根源であるケースもある。

不十分な説明:解約料に関する説明がない、または分かりにくかったという点も、消費者の不満に繋がっている。

参考:消費者庁:解約に関する現状について(頁7)

これらの点から、解約料に関する透明性と合理性の欠如が、消費者の不満の主な要因となっていることが読み取れます。

「消費者はどのような解約料を「不当」と感じるのか」

消費者が不当と感じる解約料の事例については以下のような例があります。

高額な違約金:車のリース契約や式場のキャンセルにおいて、違約金が予想以上に高額だった場合、消費者はそれを不当と感じることがある。

事業者側の説明不足:契約時に違約金についての説明が不十分だったり、全くなかった場合も、消費者は納得できないことが多い。

自然災害による中止:例えば台風によってイベントが中止になったにも関わらず、支払い戻しが少額、または払い戻しがなかった場合は不公平と感じられる。

パンデミックによる影響:新型コロナウイルスのようなパンデミックの影響で挙式が延期され、キャンセルになった場合でも、契約金額全額を請求されると、消費者はそれを理不尽と感じることがある。

緊急事態によるキャンセル:同行者の発熱など、予見できない緊急事態によって当日キャンセルしたにも関わらず、全額支払いを求められるケースも、不当と受け取られることがある。

参考:消費者庁:解約料の実態に関する研究会第1回議事録

このように消費者は、不測の事態や予見できない状況によるキャンセルに対して、適切な対応や柔軟性がない場合、解約料を不当と感じる傾向にあります。

消費者の「不満」を減らしトラブルを低減させる仕組みとは何か

消費者が契約解除時の料金に関する不満を減らすための仕組みには、事業者による透明性の高い情報提供が不可欠です。

解約料の設定において考慮すべき要素には、商品やサービスの種類、取引形態(例えば、オンライン購入と店頭購入の違い)、キャパシティ制約の有無(コンサートチケットなど)、ノーショー問題(予約を受けたにもかかわらず当日に客が現れない問題)のように、事前に予約した人を特定化できるかどうかを考慮する必要があります。

合理的な消費者を想定し、期待満足度やキャンセル料の支払いに関する態度も考えなくてはいけません。消費者がキャンセルした際の様々な不満点を理解し、それらを減らすための方策を講じることが重要です。

事業者としては、解約条件を明確にし、消費者にとって公平で理解しやすいポリシーを設定することで、不満の減少とトラブルの低減を図ることが期待できます。また、契約の種類に応じて解約可能なオプションを事前に提供することも、消費者の選択肢を広げ、不満を軽減する要因となるでしょう。

まとめ

企業は、現在の価格戦略と契約体系において、いくつかの重要な点に注意を払い、適切な対策を講じる必要があります。まず、消費者のニーズに適合した価格戦略の継続と市場動向への敏感な対応は不可欠です。これにより、消費者との持ちつ持たれつの関係を構築し、維持することができます。
次に、契約内容の柔軟性と透明性を高めることが望ましいです。特に解約料などの重要な情報は事前に明確にしておき、消費者が理解しやすい形で提供することで、顧客満足度を向上させることができます。
 さらに、倫理的な問題に配慮することも重要です。特に、損害額と無関係な解約料に依存する収益モデルは避けるべきで、透明で公正な価格設定を行うことで、長期的な信頼関係の構築を目指すべきでしょう。また、消費者に無理なサービス利用を促す心理的圧力を避けるために、解約やキャンセルに関する方針の見直しも必要です。これには、特に緊急事態や予期せぬ事態に対する柔軟な対応策の設定が含まれます。

 最後に、企業は特定の状況下でサービス提供を拒否する権利を持つことも検討すべきです。これにより、消費者と企業の双方の利益を守りつつ、トラブルの回避につながります。このように、企業は消費者の利益を尊重し、倫理的かつ柔軟な企業戦略を取り入れることで、長期的な成功と顧客満足が期待できるでしょう。